50年間の余生の過ごし方

ラーメンと日本酒と外食とゲームを見初める日々

【あらすじ】代理店時代

学生時代はろくな努力もせず、日々のうのうと暮らしていた。
前半3年間は昼過ぎに起きて夕方からサークルに行き、毎日飲んだくれていた。
そして後半3年間はらーめんの食べ歩きにばかり時間と金を使い、夜飲む場所は渋谷から歌舞伎町のめだかに変わっていた。
懐かしいなぁ。黒ラベル1杯30円。
なぜか大学には院にも行ってないのに6年間もいた。2年間の学費・210万円分の笑いは一生たっても元がとれない。


いや、そんなんどうでもええねん。
なんでかそこそこまともな総合広告代理店に入社できて、希望通り営業になれた。
というかクリエイティブ~とかストプラ~とかマーケティング~とかそういう難しいことは自分には無理だしデジタルつまらんだろうし媒体担当はノリ的に無理だと思ったので、お得意の愛嬌と対面好感度でなんとかできそうな営業しか選択肢がなかった。

 

いざ仕事をしてエンタメ・金融・飲料・食料・通販業界などいろいろなクライアントを経験したが、
肝心の代理店営業の仕事自体は楽しかった。率直に。
しかし楽しさとかやりがいの裏にはもちろん恐さも孕んでる。
個人的に振り返る意味でもまとめてみる。

 

■良い点


①自分で決められる範囲が多い
あくまで代理店なので受注ベース、クライアントの宣伝担当の要件を満たすための"御用聞き"のイメージがあるが、
予算さえもらえれば内容はほとんど代理店で決められる。
予算がなくても自主提案の内容は決められる。
代理店で決められる、ということは絶対的に営業が主導を握ることになるので
自分のやりたいことを実現できる可能性は十分高くなってくる。
また、案件の大小にもよるけれど、クライアントの宣伝担当者1人からもらった案件1つに対して営業1人が束ねるスタッフは社内・社外あわせて多いと20人くらいいる。
全体管理能力とか論理的説明力とかは自ずと鍛えられるし、やりたくなくてもスタッフ間の調整とかは必須。
クライアントの宣伝担当の頭の中にやりたいことがしっかりとあると「作業代理店」に成り下がってしまって面白みは半減以下になるが、
代理店に内容をポーンと任せてくれるケースが多いので、クライアントの要望と予算を考慮しながら少しずつ全体像を作っていくことは楽しい。

 

②たまに煌びやかな世界を味わえる
想像しやすいところでいうとTVCMの撮影。
一流芸能人とか一流スポーツ選手とかだとテンションはブチあがるが、現場に10分もいれば慣れて何も思わなくなる。
芸能事務所とやり取りするのは代理店のキャスティング部門なので、営業がタレントと直接話す機会はほぼない。
もしあるとしたら、支社配属になって準キーやローカル局の女子アナと仲良くなれる可能性が少しあるくらい。
、、、と贅沢を言ってみたものの、撮影にタレントを使うこと自体予算的にも贅沢で有難いことで、
半分以上の映像制作は無名モデルなどを起用したいわゆる"ノンタレ”か、思い切って実写なし!というもの。
長年同じタレントを起用しているような企業だと、撮影があっても新鮮味はなく、ミスをしてはいけないという無駄な緊張感しかない。
金もかけて各社関係者のスケジュールも抑えている撮影でヘマをすることは、営業にとって死を意味します・・・。
思い入れある体験は、人気声優さん4人とファン100人くらいで行く2泊3日の沖縄ツアーの企画運営。
さすがにこれだけ長時間一緒にタレントさんと共に過ごすとマネージャーさんとも仲良くなり、ファンだったら発狂しちゃうような舞台裏も沢山見れた。良い意味と悪い意味、両方の発狂。


CM撮影以外だと、何かにかけて行われるVIPばかりの祝賀会とか、コンパニオンだらけのゲームショウ打ち上げとか、経費使い放題の素晴らしい出張達とか、なんだとか。
この話題尽きないな!
時代もあってか、全裸になって酒をあびながらカラオケをする、みたいな大学生ノリの飲み会には一度も遭遇したことがない。
東京で営業職だとほぼないね。TV媒体担当と名古屋・大阪・福岡からまだ消えぬ悪しき文化。

 

まぁあれだ、一番好きな能年玲奈と一緒に仕事したかったけど最後まで叶わなかったから、甘くないということだ。

 

③ルーティーンワークがほぼない
月末の経費精算・日々の勤怠登録などを除けば毎日行う退屈なルーティーンワークがない。視聴率報告くらい。
逆を言うと、毎日やってることが違うから飽きが来ない。
つまりありとあらゆることが体験できる。
企画書だけを書いていればいい訳じゃない。スタッフをアサインして一緒にクライアントのところに行くだけが営業じゃない。
イベントを企画・運営するとなったら平面図や立面図も読めるようにならないといけないし、ゲームを担当するとなったらファミ通を毎週デスクで読まないといけない。
ただ、時には「これも代理店の仕事かよー」と思う地味すぎる仕事もある。
クライアントが年末に得意先に配布する卓上カレンダーのデザインと制作。
これだけ聞くと全く違和感はないけど、その月ごとのデザインを日本全国の景勝地とその場所に咲く花の組合せでデザインするというコンセプトだった。
その無限の組み合わせを「我々の考えるベストバランス」でチョイスする。
そしてクライアントの観光大好き部長に「なってない」とあっさり却下される。
それを3往復くらいして、結局最後は部長が口を出しまくってデザインの組み合わせが決まる。
なんだこの非効率すぎる作業は・・・。
それに輪をかけるように、デザインを発注した先のデザイン会社は各景勝地に電話で確認をとり、カレンダーのデザインとして採用していいかどうかの許可をとる。
これもなぁ。デザイナーはこんな仕事すると思ってデザイン会社に入ってないよなー。
すっごい無愛想なデザイナーなんだけど、きちんと許可とってくるから、人ってのは仕事を選べないんだなと痛感しました。
話がそれたけど、とにかく色々な分野の仕事があるから自分の経験に幅を持たせたい場合は良い。

 

■悪い点


① とはいえ受託型企業
提案内容自体は代理店側にイニシアチブがあるとはいえ、結局はクライアントから代理店に発注された業務しかないのでそこには絶対的な主従関係が存在する。
士農工商代理店」という入社してすぐに聞いた言葉をあらゆる場面で実感してきた。
ミスはするな。ミスは全て代理店のせい。納期は必ず守れ。だけどこっちから送る必要書類はもうちょっと待ってくれ。追加の作業が発生したとしても金は支払わない。
どのクライアント、どの担当者もこのスタンス。
ごく稀に対等な立場で二人三脚できる人はいるものの、ほとんどの人は代理店を家来かなにかと勘違いしている節がある。たとえ若手の担当者であっても。
「代理店は無理をしていつもなんとかしてくれるから、無理を言っても全然平気」という社会全体の風潮を感じる。
いやいや、無理をさせてるのは貴方達なんですよ、と。
この主従関係を常にクライアントとの会話の節々から感じ取りながら仕事をすることになる。
だからクライアントと代理店で仲良くなる人達がいたとしても、クライアントと代理店同士で結婚する夫婦ってほとんど聞かないんだな。

 

②クライアントリスクが大きい
担当するクライアントによって業務の違いが大きすぎる。
ずっとデジタル広告を運用するような細かい営業もいればCMB(セントラルメディアバイイング)をし続けたTVのプロみたいな人もいる。
案件ごとの予算も言ってしまえばクライアントによるところが大きいので、自分が手がける広告キャンペーンの規模の大きさがクライアント予算に比例してしまいがち。
これが大問題。
予算のあまりないクライアントを担当するとキャンペーンと呼ぶに値しないような草の根活動しかできん。
「世の中を広告の力で変えたい!」「自分の作ったCMをTVを観ているみんなに観てもらいたい!」とか夢見てる人にとってはつらい現実。
そういう憧れの的となるような仕事はごく僅かの"最"上位代理店の中でも厳選されたチームにいないと味わえないと思うんだよね。
自分が頑張ってきたこの広告宣伝は本当に意味があったの?客からは売上あがったとか喜ばれてるけど御社の企業努力とか御社の営業さんが頑張ったお陰じゃないの?と少し冷静になってしまう時がある。
かといって広告の効果測定作業はとてもタフで難しく金もかかる上に自分達が欲しい理想のデータが手に入るとは限らない。
金をかけて広告宣伝する意味を疑問に感じてしまう。
効率を追い求めるなら、悲しいかな、つまらない上に代理店もいらないデジタル広告運用一択。だと思う。


③数十年後が危うい
代理店って、先行き怪しくないですか?
デジタル広告は代理店通さなくても直でネット専業代理店やそれこそ媒体に発注できる世の中だし、
マーケティングを意識した広告宣伝の最適化なんて事業会社が自社の中でプランニングできる世の中になっていくと思う。
広告会社全体の流れの中でコンサル業務に舵を切る側面もあるけれど、土台のしっかりしたシンクタンク日系企業外資もどちらも国内には沢山存在してますからね。その牌を奪うのは簡単ではないと思う。
そのうち、「あれ?代理店に広告宣伝任せるのってあんま意味ないんじゃね?」と気付き始めた新興系企業からどんどんその波は押し寄せてくると思う。
TVメディアのバイイングだけは局との長年のパイプとかがあるのでメスが入りづらいと思うけど、それでもTVCMという概念自体が変わっていくのとどちらが先かなとすら思う。


④圧倒的業務量
働き方改革とか生産性とかが声高に叫ばれてる世の中は、やっぱりDの新入社員の過労自殺報道に因るところが大きいと思う。
上でも少し述べたけど、どのクライアントも代理店は無理してナンボと思っている節がある。
なので平日深夜でも土日でも関係なく代理店・制作会社は仕事を進めないといけない。
世の中に楽な仕事なんてないと思うし「代理店はとっても大変なんだよ!」と悲劇のヒロインぶるのはとてもカッコ悪いことだと思うけれども、
実質的な業務量の多さとそれに伴う拘束時間の長さだけ切り取ると凄惨な業界だと思う。


...と、自分なりに過去の社会人経験をまとめてみたけれど、
この業界でずっと今後も生きていくことになるんだろうと今年の春までは思っていた。
しかし、最後に述べた「④圧倒的業務量」が引き金になり、事態が大きく移ろいでいくのです。
次回、『【あらすじ】休職』に続く。